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PTSDの基礎知識を解説|療養中の過ごし方や診断後の人との接し方も紹介

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新宿駅前の心療内科・精神科 あしたのクリニック

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、命の危険を感じるほどの体験や出来事が起こったあと、不快な反応や感情が長く続き、日常生活に支障をきたす精神疾患です。発見が遅れて、適切な治療が行われないまま経過すると、慢性化したり、他の精神疾患を併発したりする可能性があります。

本記事では、PTSDの基礎知識をわかりやすく解説しています。さらに、療養中の過ごし方や、PTSDと診断された人との関わり方もご紹介。

「自分はPTSDかもしれない」「身近な人にPTSDの人がいる」という方は、ぜひ参考にしてください。

PTSDとは

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、日常生活に支障をきたすほどの、強く不快な反応のことです。

命の危険を感じるほどの出来事や、重篤な病気・けがによって、精神的苦痛が長期間に渡って続き、フラッシュバックや睡眠障害など、日常生活に悪影響を与える状態を指します。

心的外傷後ストレス障害は、日本の総人口の1.3%に発症するといわれており、男性よりも女性に多い傾向があります。

単純性PTSDと複雑性PTSDの違い

PTSDは、原因や発症の経緯によって「単純性PTSD」「複雑性PTSD」に分類され、それぞれ症状や治療内容が異なります。

本章では、2つの分類の違いや特徴を説明します。

単純性PTSD

単純性PTSDとは、単発的に生じた辛い経験や体験によって引き起こされます

たとえば、大きな地震による自然災害・交通事故・暴力行為などです。

具体的には以下の症状がみられます。

  • 回避行動
  • フラッシュバック
  • 過覚醒症状(ドキドキしたり、怒りっぽくなったりすること)
  • 集中力や意欲の低下
  • 睡眠障害

単純性PTSDは、適切な治療やカウンセリングによって、数カ月ほどで軽快に向かうとされています。

複雑性PTSD

一方で「複雑性PTSD」は、長期間に渡って繰り返されたトラウマ体験によって引き起こされます

たとえば、いじめや家庭内暴力、性的虐待、大きな病気やけがなどです。

幼少期に、親からの暴力や学校でのいじめを受けていた場合など、逃れられない状況が続くことで、心の傷が深くなり複雑性PTSDを発症することがあります。

複雑性PTSDでは、単純性PTSDの症状に加えて、以下の症状がみられます。

  • 感情の不安定
  • 人間不信
  • 対人恐怖症
  • 自己破壊行為

慢性的なトラウマ体験によって長期間影響を受けていたため、治療に時間がかかるとされています。複雑性PTSDは、専門家によるカウンセリングや心理療法が有効です。

PTSDの主な6つの原因

PTSDは様々な要因から引き起こされるとされています。

主な原因は、命にかかわるほどの出来事やけが(外傷的出来事)、トラウマになりかねない体験などです。

強い恐怖や無力感、戦慄の感情を与える出来事が、PTSDの引き金になることが多く、自分が直接体験した場合だけでなく、他人の不祥事を目撃した場合にも起こり得ます

具体的にPTSDの主な原因とされているのは、以下の6つです。

  • 他人からの暴力(虐待を含む)
  • 性的暴行
  • 事故
  • 自然災害
  • 人災
  • いじめ

上記の経験を1回経験しただけで発症する場合もあれば、複数に渡って経験することで発症するケースもあります。

PTSDの検査と診断基準

PTSDは、血液検査や画像では診断できず、本人の気持ちや症状、DSMー5(精神疾患の診断・統計マニュアル)やICD-10(国際疾病分類)​​などの診断ツールに基づいて判断されます。

基本的には、衝撃的な出来事を体験したあと、恐怖や不安などの不快な感情が1カ月以上続き、日常生活に支障が出るほどの症状が見られた場合、PTSDと診断されます

しかし、症状が複雑に組み合わさっているほど診断が難しく、他の精神疾患と間違われることも少なくありません。

PTSDの5つの症状

PTSDは以下の5つの症状に分けられます。

  • 侵入症状
  • 回避・麻痺症状
  • 認知と気分の陰性変化
  • 過覚醒症状
  • 解離症状

上記症状が段階的に出現することもあれば、症状が複雑に組み合わさって現れることもあります。

そのため、正しい診断がされず、結果として治療が遅れ慢性化してしまう可能性もゼロではありません。

ここでは段階別に、それぞれの特徴や症状を解説します。

1.侵入症状

侵入症状とは再体験症状ともいわれ、原因となった出来事の記憶が、自分の意思とは無関係に思い出される状態です。

悪夢として夢で何度も見たり、今も被害が続いている感覚を受けたり(フラッシュバック)する人もいます。

思い出すと気持ちが動揺して、動悸や発汗などの症状を伴うことがあります。

2.回避・麻痺症状

回避・麻痺症状は、原因となった出来事を思い出すかもしれないきっかけ(活動、状況、人物など)を執拗に避けたり、出来事自体を思い出せなくなったりする状態です。

上記のような記憶のコントロール不良は、脳の海馬への影響や刺激が考えられています。

また、あらゆることに関心を持てなくなり、自然な感情やポジティブな気持ちなどを感じにくくなるのもこの時期の特徴です。

そのため、周囲との関係を拒絶するなどの行動がみられることもあります。

3.認知と気分の陰性変化

認知と気分の陰性変化の段階では、強く否定的な信念を継続的に抱きやすくなります

原因となった出来事への考え方が歪み、起こった事柄に対して過度に自分や他人を責めたり、罪悪感を抱いたりすることもあります。

幸福感や楽しさを得られず、恐怖・戦慄・怒りなどの否定的な感情を抱き、周囲から孤立していると感じることも少なくありません。

そのため、この時期にうつ病を併発する可能性もあります。

4.過覚醒症状

過覚醒症状とは、常に気を張り、ドキドキしたり怒りっぽくなったりする状態です。

危険を敏感に感じ取り、ちょっとしたことや物音で驚くこともあります。

そのため十分な睡眠がとれず、集中力や意欲の低下、イライラする姿が見られます。

PTSDに併存しうる障害

PTSDは、他の精神疾患を併発する可能性があります。

合併症として発症の可能性が高いものは、以下の通りです。

  • うつ病
  • パニック障害
  • 摂食障害
  • 不安障害
  • 睡眠障害
  • 物質依存

物質依存は、アルコールやたばこ、薬物などに依存してしまうことです。

また、うつ病や物質依存など、なんらかの合併症を発症する割合は約80%以上とされています。

他にも、パニック障害や不安障害、摂食障害などの精神疾患を引き起こす可能性もあります。

PTSDの主な3つの治療法

PTSDの主な治療は、以下の3つです。

  • 心理療法
  • 薬物療法
  • 他の精神疾患の治療と併用

PTSD以外に他の精神疾患を併発している場合は、それに対しての治療をおこなうことで、PTSDの症状が落ち着くこともあります。

それぞれの治療法について解説します。

治療法1.精神療法(心理療法)

PTSDの治療として中心となるのが、心理療法(精神療法)です。

初期の段階では、患者への教育が重要であり、PTSDについて深く理解してもらう必要があります。

その後、リラクゼーションや瞑想、ヨガなどを取り入れて、ストレスや不安を緩和させることが有効です。

他には、以下の治療法などが用いられます。

  • ストレス管理法
  • 曝露療法(認知行動療法)
  • EMDR法
  • 環境調整

いくつかの心理療法を組み合わせることも有効で、患者の状態や症状に合わせて治療法が選択されます。

治療法2.薬物療法

薬物療法では、症状に合わせて適切な薬が処方されますが、あくまで対症療法がメインです。

なかでも、抗うつ薬が推奨されており、他には、症状による苦痛の緩和として、抗不安薬や気分安定薬など、一時的な症状緩和として効果が期待できます。

しかしこれらの薬は、PTSD自体が治るわけではなく、あくまで症状の緩和としての役割を持ちます。

治療法3.他の精神疾患の治療

他の精神疾患や物質依存を併発している場合は、それに対しての治療も同時におこなうと効果的です。

併発している疾患がよくなると、気分が落ち着くケースもあります。

症状や状態に合わせて、治療法が検討されます。

PTSDの経過

PTSDは、原因となる出来事を体験してから、約6カ月以内に発症するといわれています。

しかし6カ月を経過してから症状が出現することもあり、その場合は発症遅延として診断されます。

症状は、約1カ月以上続くのが一般的です。

その後は、半数ほどが発症後3カ月以内に回復するとされており、症状が3カ月以内を急性、3カ月以上続く場合を慢性と診断されます。

なかには、1年以上症状が残る人もいます。

時間が経つにつれて、自然に症状が落ち着く場合もありますが、そうではない人もいるのも現状です。

長い期間症状が続くと、自殺念慮やアルコール依存症などを引き起こすリスクが高くなります。

また、日常生活にも支障を及ぼし、対人関係や社会機能に障害をきたす可能性も少なくありません。

PTSDの受診の目安|あてはまる症状をチェックしてみよう

PTSDの症状は1カ月以上続くとされているため、辛い症状が1カ月以上みられ、日常生活に支障が出ている場合が、受診の目安となります。

しかし「自分がPTSDなのかわからない」「具体的にどの症状があったら受診すればよいの?」と迷う方もいるかもしれません。

過去半年〜1年以内に今までに事故や災害、暴行事件など、命の危険を感じるほどの出来事を経験したことがあり、下記に該当する場合にはPTSDの可能性があります。

【PTSDチェック表】

トラウマとなった出来事の記憶やその時の感情・感覚を何度も思い出し、苦痛を感じている
トラウマの原因となった出来事を夢にみて、苦痛を感じる
トラウマの原因となった出来事を再び経験しているかのように感じることがある
トラウマの原因となった出来事を思い出す度に、心理的・生理的反応がある
トラウマの原因となった出来事を、思い出せない
トラウマの原因となった出来事を思い出しそうな場所や人、行動を避ける
人と関わることが苦痛と感じる
周囲からの孤立感や疎外感がある
喜びや楽しさなどの感情を得られない
夜眠れない、眠りが浅い
集中力や意欲の低下がある
イライラして怒りっぽくなった
ちょっとしたことで驚いたり敏感になったりする
将来の事(結婚や仕事など)に期待できなくなった

上記項目の症状が1カ月以上続いており、なおかつ日常生活に支障を及ぼしている場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

PTSDと診断された人の過ごし方

PTSDと診断された場合は、主治医とよく話し合い、今後の治療の方向性を決めていきます。

まずはゆっくり過ごして、十分な休息をとることが大切です。

本章では、PTSDと診断された場合の過ごし方をご紹介します。

主治医と今後について話し合う

PTSDと診断されたら、症状や状況に応じて適切に対処するのが大切です。

まずは主治医や臨床心理士、カウンセラーなどと一緒に今後について話し合い、自分に合った生活の仕方や対処法を考えていきます。

治療に前向きになるのはよいことですが「早く治さなきゃ」との焦りは禁物です。

自分ができることから、無理のない範囲で病気と向き合うことがポイントです。

十分な休息をとる

気持ちが安定しないうちは、ゆっくり休むことが大切です。

無理をすると、体調を崩しかねません。

生活に大きな支障をきたしている場合は、治療を優先するのがよいでしょう。

会社や学校に連絡して、休学や休職するのも方法のひとつです。

精神疾患を発症した場合、使用できる制度や支援があります。

これらの支援を活用しながら、規則正しい生活を送り、しっかりと休息をとるよう心がけましょう。

受けられる支援・制度については、後ほどご紹介します。

PTSDの人との接し方のポイント

自分がPTSDでなくても、家族や友人にPTSDを患っている方もいるかもしれません。

身近な人がPTSDを発症した際、どう接したらよいのか迷う方もいるでしょう。

その場合は、決してPTSDを軽視せず、正しい知識を持って接することが大切です。

また、本人から話をしてくるまで深掘りはせず、待つことも大事です。

ここでは、PTSDの人との接し方のポイントを4つご紹介します。

原因となった出来事を無理に聞き出さない

本人から話をしてくるまでは、無理に話を聞き出さないようにしましょう。

原因となる出来事をあれこれ無理に聞き出すと、当時のことを鮮明に思い出し、症状が悪化する原因になりかねません。

あくまで本人のペースに任せて、話したくないうちは、散歩など可能な範囲で気分転換に付き合うのもよいでしょう。

話を聞くときは意見せず傾聴する

本人が話を始めたら、聞き手に徹することが大切です。

安易に同情したり「しっかりしなさい」などと、責めるような発言は避けましょう。

かえって相手を傷付けてしまう可能性があります。

原因となった出来事自体には深く触れず、本人が感情や気持ちを吐き出せる環境作りを意識しましょう

本人が何に悩み、どのようなことを望んでいるのかを理解することが重要です。

PTSDについて正しい知識を持つ

PTSDなどの精神疾患は、他人にはなかなか理解してもらえない領域です。

とくに今まで、精神疾患を発症した経験がない人には理解しにくいかもしれません。

そのため、まずはPTSDに対しての正しい知識を持ち、理解を深めることが大切です。

「甘え」や「弱さ」などと軽視しないよう注意しましょう。

自分一人で抱え込もうとしない

周囲で支える人は、自分一人で抱え込まないようにしましょう。

とくに家族がPTSDになった場合、自分が支えないと!と思うかもしれません。

しかし、自分でなんとかしようと過剰に向き合うことで、相手に負担を与えてしまうことも。

医療者や他の家族などと協力し合いながら、無理のない程度でサポートすることが大事です。

PTSDの人が活用できる制度や支援

PTSDと診断されて会社を休む場合、活用できる制度や支援があります。

これらを上手く活用することで、仕事を休む不安が軽減されて、治療に専念できるでしょう。

休職制度

休職制度は、会社によって取得できる期間や条件などが決められています

なかには制度を採用していない会社もあるため、確認してみましょう。

手続きの方法も会社によって異なりますが、多くの場合医師の診断書が必要となります。

まずは医療機関を受診して、休職制度を利用したい旨を主治医に伝えましょう。

傷病手当金

傷病手当金とは、病気やけがで会社を休んだ時に受けられる支援です。

仕事に就くことができないことを証明できる場合、支給対象となります。

対象なる条件は、連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けなかった場合です。

また、休業した期間内に給与の支払いがないことも条件となります。

傷病手当金が支給される期間は、支給を開始した日から通算1年6カ月です。

支給額については、今までの給与によって異なりますので、希望する場合は、職場に確認してみましょう。

PTSDは一人で抱え込まず受診しよう

PTSDは、早期発見・早期治療が大切です。

一人で抱え込み、適切な治療がおこなわれないと、うつ病や不安障害などの精神疾患を併発して、慢性化につながる恐れもあります。

気になる症状や不安がある場合は、早めに医療機関を受診して、相談しましょう。

参考サイト・文献
日本精神神経学会日本語版用語監修、髙橋三郎ほか監訳:DSMー5精神疾患の診断・統計マニュアル、医学書院、2014
e-ヘルスネット|厚生労働省
家族や友達がPTSDになったとき|こころの耳 厚生労働省
一般社団法人日本トラウマティック・ストレス学会
第一部基礎知識|​​​​​​国立精神・神経医療研究センター資料
複雑性PTSD治療前進へ ~心理療法(STAIR Narrative Therapy)の成果~|国立精神・神経医療研究センター
PTSD 発症に伴う海馬委縮の神経メカニズムの解明|JSTAGE
心的外傷後ストレス障害
全国健康保険協会

 

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